特集2

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「チャンプ」の引っ越し

2016年3月16日


生後5日のチャンプ(左)と母・ゴポン
2014年1月31日、キンタロウとゴポンの間に生まれた「チャンプ」。大きな体に似合わず、お母さんにべったりと甘える姿が人気を集めたインドサイだ。
そんな彼が、お母さんからも、生まれ育った金沢動物園からも旅立つ日がやってきた。

引っ越す先は、新たにインドサイの飼育に取り組む秋吉台自然自然動物公園(山口県)。3月14日、別れを惜しむように降る雨の中で、チャンプを無事に送り出すべく行われた出園作業の様子を紹介しよう。


出だしは不調!?

当日はあいにくの空模様。
とはいえ、雨が降ったらおやすみ、というわけにもいかず、休園日のインドサイ展示場前には朝9時前から20人近い職員たちが集結した。

まだ2歳の若い個体とは言え、なにしろ大きな動物。運び出すのだってそう簡単じゃあない。
この日に向け、獣舎の出入り口には1カ月ほど前から輸送箱がセットされ、時間をかけてチャンプに「箱が怖いものではない」ことを知ってもらった。
まずはチャンプにこの箱の中に入ってもらうところから作業は始まる。
のだが、なにかを察したのか、あるいは単に気乗りしなかったのか、箱に乗るのを渋るチャンプ。無理に押し込むわけにはいかないので、ひとまず中断して仕切り直すことに。

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輸送箱(左)と、箱に慣れるため事前練習中のチャンプ。この日はちょっと入りたくなかった様子

というわけで、その間にインドサイについて少しお勉強を。
インドサイは、名前の通りインド北部などの川辺の草原に暮らす動物。野生では3300頭ほどが生息していると言われていて、「絶滅の危険が増大している種」である「危急種」に指定されている。
国内では、金沢動物園で飼育されているチャンプの父・キンタロウと母・ゴポンのほか、多摩動物公園(東京都)と東山動植物園(名古屋市)の3園で計9頭が飼育されているだけだ。
今回のチャンプの移動で秋吉台自然動物公園が4園目の飼育施設となる。秋吉台自然動物公園では、ひとまずチャンプ1頭を飼育しながら、いずれは彼のお嫁さんとなるメスを探していく予定だそうだ。


雨にも負けず

さて、そのチャンプ。
作業開始から2時間が近く経ったころ、ようやく輸送箱に入ってくれた。
ひとまず彼には箱の中で待っていてもらって、ここからは人間が頑張る番だ。

箱にフタをしっかりと固定していく職員、チャンプにおやつをあげながら様子を見る職員、作業の様子を撮影して記録を残す職員、取材メディアに対応する職員。
雨と寒さに苦しめられる中、全員が真剣な表情でそれぞれの役割をこなしていく様子はまさにプロフェッショナルだ。

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箱の中のチャンプ(左)と作業を進める職員たち

大型動物の輸送では、一歩間違えば動物にも作業をしている人間にも、命に関わる事故が起きかねないリスクがつきまとう。
誰もケガをすることなく無事にチャンプを送り出す。そのために飼育員さんたちは集中を途切れさせることなく、輸送箱とその中のチャンプに向き合っていたのだ。

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いよいよチャンプは空中へ
輸送箱のフタがしっかりと固定されると、さらなるプロフェッショナルの登場。ラフタークレーンと呼ばれる大きなクレーン車と、チャンプの入った輸送箱を遠く山口県まで運んでくれるトラックだ。
まずはクレーンで少しだけ持ち上げて、地面に置いたままでは作業できなかったボルトを締め上げていく。そうして輸送箱が万全の状態になったところで、改めてクレーンで持ち上げトラックへ移していく工程に入って行く。
急に持ち上げられて驚いたのか、チャンプが動いて箱が空中で大きく揺れるシーンもあったが、そこはプロの仕事。箱のサイズとギリギリの荷台に一発で収めてくれた。

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慎重にトラックへ降ろされ(左)、一路山口県へ

これで金沢動物園での作業は完了。このころにはすでに時計の針は正午を回っていた。
園の担当者は、「最初にチャンプが箱に入ってくれなかった以外は概ね順調でした。多少時間がかかりましたが、想定の範囲内です」と話してくれた。


インドサイのために

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チャンプ、秋吉台でも元気で!
どのくらい伝わるか分からないが、当日は取材をしているこちらも心が折れそうになるほどの雨と寒さだった。それでもずぶ濡れになりながら、必死に作業に当たった職員たち。その甲斐あって、トラックは翌日に無事、秋吉台自然動物公園に到着を果たした。

しばらくは、新しい場所で一人暮らしとなるチャンプ。
甘えん坊だっただけにちょっと心配だが、あちらでも人気者になっていつかやって来るお嫁さんに気に入ってもらえるように “ 一端の男 ” になってほしいところ。それと同時に、金沢動物園ではキンタロウとゴポンの新たな赤ちゃん作りにも期待がかかる。

数を減らしつつあるインドサイ。
その危機を知ってもらうきっかけとして、動物園で暮らすチャンプたちの役割は大きい。
この日の作業には、動物園で働く人たちのそんな思いがガッツリと込められていたように写った。