特集2

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ライチョウを増やすということ 前編

2015年8月5日


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「動物園ってなんだ!?」
こう聞かれたとき、みなさんはなんと答えるだろう。
たぶん、多くの人が「動物をたくさん飼っていて、見せてくれるところ」と返す。それはもちろん正解。でも、実はそれだけじゃない。

例えば、動物園では希少な動物の保護飼育や繁殖にも取り組んでいる。
もちろん、どんな動物だって絶滅の危機にさらされずに暮らすのがいいのだけれど、なんらかの理由でピンチに陥った種を維持することを手伝う役割が、動物園にはある。

こういった取り組みは、動物園がその動物本来の生息域の外にあることから「域外保全」と呼ばれている。
域外保全のひとつの例が、最近のニュースでも取り上げられている、上野動物園で始まったライチョウの飼育だ。

 

「ライチョウ保護増殖事業計画」、始動

2015年6月から、上野動物園ではライチョウの飼育が開始された。これは、日本で最も歴史ある動物園にとっても初めての試みだ。

飼育は「ライチョウ保護増殖事業計画」という環境省の事業の一部だ。
この事業は、ライチョウや彼らが暮らす生息域の調査、環境の改善などを行い、包括的にライチョウを守っていくための計画だ。その中の活動のひとつとして、動物園での飼育・繁殖がある。

ライチョウは、頚城山塊、北アルプス、乗鞍岳、御嶽、南アルプスの5カ所の山々の、標高2500m以上の高山帯で暮らす鳥だ。それぞれが離れた場所なので、違う山に住むライチョウ同士の交流はない。
1980年代には3000羽ほど生息していたとされるライチョウだが、その後数を減らし、現在では2000羽弱になり、さらに減少は続いていると見られている。

とは言え、日本に暮らすライチョウ全部が危機に瀕孵化後9日目150706_resized_c しているかというと、必ずしもそういうわけではない。生息地によって、安定しているグループと、野生の回復力だけでは厳しい状態に陥っているグループが存在するのだ。
「状況として厳しいのは、南アルプスに住むライチョウたちです」と話すのは、上野動物園の飼育展示係で今回のライチョウ飼育を担当している高橋幸裕さんだ。

「現段階での事業の目的は、南アルプスのライチョウを守ることです」と高橋さんは言う。
日本全体でくくれば、すべてのライチョウがすぐに姿を消すということではない。ただ、かつてはライチョウの生息地だった中央アルプスや白山、八ヶ岳、蓼科山には、もうライチョウはいない。そして、このままでは南アルプスからもライチョウが消えてしまう。もしかしたら、近い将来、ほかの生息地でも同じことが起きてしまうかもしれない。

そんな状況を未然に防ごうというのが、この「ライチョウ保護増殖事業計画」だ。
動物園関係だけでも、上野動物園同様に飼育を行う富山市ファミリーパークのほか、現時点で飼育はしていないが、多摩動物公園、いしかわ動物園、茶臼山動物園、横浜市繁殖センター、大町山岳博物館、那須どうぶつ王国の8園館が参加する一大事業である。

 

スバールバルライチョウの飼育・繁殖

事業が正式に始まったのは最近のことだが、上野動物園では前々からライチョウたちを守るために何段構えもの準備を進めてきた。
2008年から始まった、国内初となったスバールバルライチョウの飼育・繁殖もそのひとつだ。

ライチョウ(展示室)_resized_cノルウェーのスバールバル諸島に生息するライチョウの卵を、現地のトロムソ大学から同大の研修を受けることを条件に譲り受けたのが始まりだ。
高橋さんも実際に研修を受けにトロムソ大に出向いたそうだ。そこで学んだ知識も活かされ、スバールバルライチョウの飼育・繁殖は上手くいき、現在では上野動物園以外の園館にもその技術が伝授され、数を増やし続けている。

この努力と結果が、事業開始にゴーサインを出すことにもつながった。
「スバールバルライチョウの飼育で、100点満点とはなかなかいきませんが、事業を始められるところまで来ている、と有識者に客観的な判断をもらった」と高橋さんが話すように、次のステップに進めるまでに飼育技術や経験が蓄積されたと認められたのだ。

しかし、いくらスバールバルライチョウで上手くいったからといって、なにもかも安心とはいかない。スバールバルライチョウは、ライチョウの中で最も北に住む体の大きなライチョウだ。最南に住み、体も小さいニホンライチョウとは対照的な存在でもあるからだ。
同じライチョウではあるが、まったく同じ鳥ではないため、高橋さんも「スバールバルライチョウの飼育で得た経験は、ニホンライチョウの飼育にも活かす。ただ、100%すべてを使えるかは分からない」と言う。

それだけ聞くと、少し心許ない感じもしてしまうが、実はこのことが今回の乗鞍岳での採卵とも関わっている。

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